第2084話 やまけらし様

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206 :本当にあった怖い名無し:2010/11/10(水) 19:01:54 ID:nOPO0RK70
俺の家は物凄い田舎で、学校に行くにも往復12kmの道程を自転車で通わないといけない。
バスも出てるけど、そんなに裕福な家でもないので定期買うお金がもったいなかった。
学校への道はちょっと遠回りだけど街中を通る道と、若干近道だけど山越えをする道と2つあるんだが、俺は山越えで汗だくになるのが嫌だったのでほとんど街中のルートを通っていた。ある日、学校の体育館で友達とバスケをしていて遅くなった俺は、早く帰ろうと自転車で山越えをしようとしていた。
街中に入る道と山道に入る道の分岐点にあるコンビニで飲み物を買って、いざ山越えに。
日が沈み始めた山道は結構不気味で、ひぐらしの鳴く声を聞くと心細くなってやけに不安になる。
戻って街中を通ろうかな…なんて思いつつガッシャンガッシャン自転車をこいでると急に
「も゛っも゛っも゛っ」
ていう表現しにいうめき声のようなものが聞こえ、その瞬間に何かが背中にドスッと落ちてきた。
上半身をグッと下に押し付けられるような感覚に襲われ、冷や汗とも脂汗とも言えない妙な汗が体中から噴き出してきた。
怖くて振り向けずにとりあえず峠を越えようとがむしゃらにこぎ続けてた。その間にも背中から
「も゛っむ゛む゛っ」
と変な声が聞こえている。
絶対変な物を背負ってしまった、どうしよう・・・と涙目になって自転車こいでたら上り坂の終わり、峠の中腹の開けた場所に出た。
息を切らしながら足をついて崖側の方に目を向けると、小さな女の子が居た。
207 :本当にあった怖い名無し:2010/11/10(水) 19:03:15 ID:nOPO0RK70
夕日の色でよくわからなかったけど、白っぽいシャツの上にフードつきの上着とデニムスカートを穿いたセミロングの子。大体6~7歳くらいに見えた。
車なんて通らない田舎の山道に、しかももうすぐ日が暮れてしまう山道に女の子がいるはずがない。
ああ・・・ひょっとしなくても幽霊か・・・って思って動けないでいると、その子は小走りで俺の足元まで来て俺をじーっと見上げた。
10秒くらい見つめたかと思うと急に俺の太ももを埃を払うようにパンパンっと叩いた。
「大丈夫だよ、安心して?」
と言ってるかのようにニッコリ笑うと、崖の向こう側に走っていって消えてしまった。
崖下に落ちた!?と思って自転車を降りて覗いてみたけど、崖下には人が落ちた形跡は無かった。やっぱり人間じゃなかったわけだ・・・
不思議な事に、女の子に太ももを叩かれてから背中の重みも消え、妙な声も聞こえなくなった。
結構暗くなってからやっとこさ家に帰った俺は、あの背中の妙なものと峠に居た女の子の事をばあちゃんに話した。
ばあちゃんはその話を聞くと、何の木かわからないけど葉っぱのいっぱい付いた枝を持ってきて、俺の頭から背中、腰にかけて2~3回払った。
一体何事かと聞くと、お前が会ったのは『やまけらし様』だ、と教えてくれた。
209 :本当にあった怖い名無し:2010/11/10(水) 19:04:01 ID:nOPO0RK70
ばあちゃんの話によると、背中に落ちてきた物は俺を向こうの世界に引っ張ろうとしたかなり性質の悪いもので、そのままだったら確実に引っ張られてたらしい。
そして峠の途中で会った女の子が『やまけらし様』だそうだ。
『やまけらし様』は山の神様の子供で、全部で12人いるらしい。
普段は人に対して特に何をするでもなく山を遊びまわってるだけなのだが、俺に憑いた物がよほど悪かったのかそれを払って捨ててくれたそうだ。
無邪気で純粋な『やまけらし様』はきっと、とんでもない物を背負ってるお前が可哀想に見えて取ってくだすったんじゃろ・・・との事だった。
俺はなんとか『やまけらし様』にお礼をしようとお供え物をあげる事にした。
昔は12足の小さな草鞋を供えたらしかったので、俺も供えようとしたけど草鞋なんてどこにも売ってない・・・。
ふと『やまけらし様』を思い出すとなかなか現代風な格好をしていたので、小児用の動きやすいスニーカーを12足供える事にした。
とりあえず2足買って朝の登校時、あの峠の中腹の草むらに揃えて置いていた。
帰りに無くなってるか確認したかったけど、ばあちゃんの話じゃ夕暮れの時間は良くないものがうろつくから危ないという事で、次の朝の登校時にまた同じ場所を見に行くと靴が無くなっていた。
きっと『やまけらし様』が気に入って履いてくれたんだろうと思う。
お小遣いの関係で1週間に2足ずつしか供えれないけど、来週には全部供えれる。
走りやすいスニーカーを履いて山の中を遊びまわってる『やまけらし様』を想像すると自然とニヤけてしまう。
いつかまた目の前に現れてくれないかな・・・と淡い期待を抱く俺の登校ルートは、自然と山越えになってしまった
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『第2084話 やまけらし様』へのコメント

  1. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/11(木) 21:40:48 ID:a0f748499

    いい話。想像すると、頬が緩む。

  2. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/12(金) 14:50:54 ID:859a79a73

    何かほっこりした。いい神さんに会えて良かったね。現代風の服装ってとこがいい。

  3. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/12(金) 15:51:13 ID:a2b8c697f

    素敵な話だなあ
    そんな神様に会ってみたい。

  4. 名前:名無し 投稿日:2010/11/12(金) 16:12:55 ID:c3921a74e

    いい話だなあ。かわいい神様もすてきだし
    筆者が好少年なのが伝わってくる。
    ばあちゃんが「夕暮れの時間はよくないものがうろつく」って言うのは
    昔から言われてる「逢魔が時」のことだろうね

  5. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/12(金) 23:52:08 ID:f1670ee4f

    ばあちゃんが、神様の事を知っててくれて良かったな。

  6. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/13(土) 10:48:23 ID:bfa04be6e

    夕方の山はヤバイ。もののけに魅入られる。やまけらし様とばあちゃんに助けられてよかったな。よほどヤバイものがとりついたのだろう。

  7. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/13(土) 21:00:32 ID:ff7965099

    ほっこり和むw
    やまけらしってどうやって書くんだろ?山蹴らし?家来?

  8. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/15(月) 12:39:05 ID:286229857

    こういう言い伝え的なものが、主によって受け継がれていくと良いね
    神様の話って良いなぁ

  9. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/15(月) 17:31:57 ID:cf907de3b

    おいおいおいおいおいおい。
    「向こうの世界に引っ張ろうとしたかなり性質の悪いもの」が潜む山越えルートを
    通るようになったことには、誰からもツッコミはないのかいな?

  10. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/16(火) 07:57:57 ID:eea979ddf

    それおもったww
    朝とはいえ度胸あるよな

  11. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/18(木) 10:38:18 ID:88870c73f

    山の童がなまってやまわらし、さらにやまけらしになったんじゃないかな。

  12. 名前:まさる 投稿日:2010/11/26(金) 07:28:19 ID:312e1d6bc

    やまけなしたん・・・
    はぁはぁ・・・
    ん?
    ぎゃああああああああああ

  13. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/26(金) 19:04:50 ID:c22a73e28

    こういう話好きだあああ

  14. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/11/30(火) 06:13:03 ID:eec761a13

    山を駆ける童で「やまかけるわらし」…
    それが縮まって「やまかけわらし」、「やまけわらし」、「やまけらし」となった説に1億ジンバブエドルを賭けよう。

  15. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/09/19(月) 00:58:16 ID:e8bfff873

    想像してニヤニヤしないでっ(>_<)

  16. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/11/10(木) 23:07:11 ID:6b35705e3

    やまけらしさますてきっ!!おようふくとかさしあげたい。

  17. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/11/10(木) 23:10:18 ID:6b35705e3

    どうかその地域の方々、神様のこと大切になさってください。

  18. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/12/25(日) 11:11:28 ID:11f4285fc

    >「向こうの世界に引っ張ろうとしたかなり性質の悪いもの」が潜む山越えルートを
    >通るようになったことには、誰からもツッコミはないのかいな?

    おもったー
    朝だけだろうと解釈したが
    せっかくけらしタソが助けてくれたんだからさすがにまた夕方通る程バカじゃないだろ

    こういうの見ると田舎も悪くないなと思うわ
    うちは中途半端な田舎だからなあ

  19. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/04/11(水) 10:13:42 ID:3c27ee70f

    「山(=神)の家来衆」で、やまけらいし~やまけらし…かな?

  20. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/07/20(金) 14:16:32 ID:11ec9fbc7

    このカシオミニを賭けてもいい

  21. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/09/22(土) 17:15:26 ID:c0d6a7c58

    教授〜

  22. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/09/04(水) 01:57:22 ID:daf05db4a

    逢魔が時、黄昏、誰そ彼、あちらとこちらが繋がりやすい時間らしいね。
    丑三つ時よりよっぽど危険だとか。
    視覚的にも垂体細胞から桿体細胞にシフトする、交通事故も多い時間だ。
    やまけらし様かぁ、お会いしてみたいねぇ。

  23. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/11/17(日) 03:46:14 ID:5c488b9bd

    現代風な神様、かわいいな。

  24. 名前:名無し 投稿日:2014/02/09(日) 10:40:55 ID:593081257

    一票を投じますw
    当方ロリではありませんが、「走る女の子(2262話)」と併せて好きな話です。
    正体は判りませんが神様ご自身ではなくて、ヒトと人外の調整役を任されている存在なんでしょうかね。
    もしそうだとすると、ヒトが悪意を持って山に立ち入った時には、恐ろしい一面を見ることになるのかも知れませんね。

  25. 名前:名無し 投稿日:2014/03/26(水) 01:58:38 ID:b3bfc3d18

    追伸です。
    よそのサイトを覗いたら「現代的な服装はスニーカーと同じく御供え物じゃないか」という説を紹介するコメがあって、ナルホドと思いました。
    今風になる前は、つんつるてんの着物を着て野山を駆け巡っていたんでしょうねw

  26. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2014/06/06(金) 13:01:22 ID:c9ae96982

    12人の女の子かあ。
    ニヤけるわけだ。

  27. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2015/08/06(木) 21:19:32 ID:de5862850

    夕方って時間帯もそうだけど、「坂」っていうのも異界との境界線になるって話はあるよね。

  28. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2016/02/21(日) 14:03:17 ID:01a89c1c3

    そもそも山自体が異界なわけだし