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第272話 雛人形

619 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:26
ある日、叔父の一家が遊びに来た。昼食の後大人達は茶の間で
おしゃべりをし、私と私の兄弟、いとこ達は隣の部屋で遊んで
いた。
茶の間と隣の部屋を遮るふすまは開け放たれて二つの部屋は一体
となっていた。大人たちのおしゃべりと子供達のはしゃぐ声でそ
こは明るいにぎやかさでいっぱいだった。
子供達の間で追いかけっこのようなことが始まりった。私は押入
れを開け、上の段によじ登った。

押入れの布団の上に登ったところで、暗がりに妙なものがあるこ
とに気がついた。2体の人形が、押入れの私がいるのと反対側に
鎮座している。

620 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:27
それはいつもはその部屋のガラス戸棚に飾られている人形だった。
7センチほどのお雛様とお内裏様の人形で、形自体はだるまのよ
うに丸く、そこに着物と顔が描きこまれていた。顔は真っ白で、
雛人形らしい切れ長の目をしていた。私はそのお雛様に特に注意
を払ったことはなかったが、そこにその人形があることは意識す
るともなく意識していた。

それが押入れの暗がりに、ちょうど自分に向かうように2体並ん
で立っている。

621 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:28
あれ、と思うまもなくその人形達は、
ひょい、ひょい
とその場で小さく跳ねた。私は何がおきたかも分からずあっけに
とられた。しかしすぐに大きな恐怖に襲われた。人形達が跳ねな
がら私に近づいてきたのだ。しかも近づきながらその姿はどんど
ん大きくなってくる。
ひょいひょいひょい。
私の目の前に迫った時には私よりも大きくなっていた。
「うわっ!」
私は手をむちゃくちゃに振り回した。その弾みで押入れから転げおちた。
622 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:29
畳が目の前に迫る・・・!ばしん、と畳に手をつき、顔を上げた。
すると・・・誰もいなくなっていた。駆け回っていた兄弟やいとこ達。
隣の部屋でおしゃべりに興じていた大人たちも。部屋はがらんと
して、気がつくとさっき昼食をとったばかりだったはずなのに、
部屋には夕方の光が斜めに差している。
623 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :03/04/22 13:30
何が起きたのか分からないまま、しばらくぼうっとしていると
母親が現れた。いとこ達はどうしたのか、と聞くともう帰ったという。
あの人形は?と思い、戸棚を見てみた。すると人形達は無くなっ
ていた。私はお雛様はどうしたのかと聞いてみた。しかしわたし
がいくら説明しても母親はそんなものはない、初めからなかった
、というばかりだった。

それから数ヶ月、寝るたびに薄暗い路地であの自分より大きくな
ったお雛様達に追いかけられる夢を見た。途中で夢だと気づくこ
とも多かったが、それでも醒めずいつまでもいつまでも追いかけ
られるのがつらかった。

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