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第439話 真冬の帰り道

603 :本当にあった怖い名無し :04/11/22 04:15:27 ID:rpkKfxAN
真冬の帰り道だった。
仕事が終わったあとは、開放感もあるが、時間を自由に使える
期待感も大きかった。夕食を済ませたら新作映画でも借りるかと
あれこれ楽しい思案をする。地元の駅から自宅までは距離があり
てくてくと歩きながら、いろんなことを考える。
商店街を過ぎ、民家の建ち並ぶ見慣れた風景と、住み慣れた自宅が
見えたころ、僕はこのままどこへも立ち寄らずに「ただいま」と
帰宅することが、もったいなく思えた・・・確かその瞬間だった。
急に、見慣れたはずの風景が、見知らぬ土地に思えた。
普通に、という表現が正しいかどうかわからないが、とにかく
見渡すまわりの家並みが、あたりまえにそこにあり、まるで初めて
訪れた場所でもあるかのように、無表情に冷たく建ち並ぶ。
背筋が凍りつく。あせって左右前後を見回すが、目に映る情景は
記憶にもなく、得体の知れない不安が募ってゆく。
思わず「え?」と声をあげてしまった。ふたたび歩き出すと、なぜか
サッと普段の見覚えのある風景に変わった。とっさに後ろを振り返ると
やはりかわらぬ自宅周辺の、毎日行き来する光景があった。
気を取り直して、さらに歩を進めると、突然、蛍光灯をつけたように
僕の周辺が明るくなった。まだ夕日が差していたので、明るいといっても
真昼の部屋で室内灯のスイッチを入れた程度である。
5メートルほど頭上に、1メートルぐらいの楕円とも円ともいえる、
平べったくて真っ白なものがあり、僕がそれを見たとたん、ギュンと
真横に飛び去った。それはしばらく近所の家の屋根に数秒とどまって、
不定形にうごめくと、上昇も下降もせず、真横に遠くへ飛び去った。
自宅に帰り、気分が悪くなって寝込む。カゼをひいたらしく、悪寒がした。
39度まで熱が出て、二日間会社を休んだ。僕の中では、あの奇妙な出来事は
熱が出たときの悪夢というポジションに近い。怖くもなく、また現実味も
なく、今ではその時の不思議な感覚も忘れかけている。しかし、たまに
帰宅途中に思い出し、歩いている周囲を再確認したりする。
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