- 584 :本当にあった怖い名無し :2006/10/04(水) 20:19:22 ID:ITBU6EyM0
- あんず飴屋さん
オレが小学校の頃、よく「あんず飴」というのを買って食べた。あんず飴屋というのは、
一種の屋台のようなもので、60歳近いと思われるおやじが手元にぶらさがっている
小さな鐘をチンチラ鳴らしながら町内を練り歩く、というもの。ものは単にあんずの実を
水飴でくるんだものなのだが、その他にいちご味のシロップをまぜこんだ「いちご飴」
なども、オレの好物だった。1本20円だったので、当時小遣いの少なかったオレでも気軽
に買える、ウレシイ駄菓子であった。
そうやって、さんざんお世話になったあんず飴屋なのだが、オレも成長していくにつれ、やがて
その存在すら忘れていった。その後、30才も半ばのすっかりいいオッサンになったある日のこと、それは目の前にいきなり
現れた。あの「あんず飴屋」である。窓越しにだが、景気よく鐘をチンチラ鳴らしながら、まるで
昔のままに、目下の急な坂をあがっていくのをチラリと見た。
その時はあまりに唐突だったので、「え?」とぼんやり立ち止まって見ていた程度だった。
そのあんず飴屋を見たのは、後にも先にもそれっきりであった。が、あとでよくよく思い出してみれば、何十年もたった今頃になぜいきなり現れたのか、また目の前の
急な坂を、おそらく年齢的に80は越えてるであろうおやじが元気にひっぱりあげていったという
のもちょっと不思議な話である。
あれはもしかしたら、あのおやじの、この世で最後の一仕事だったのかもしれない。
あのおやじに世話になった者だけが、あの光景を見られたのかもしれない。
今、あのおやじに言ってやりたい。
「ありがとう。ほんとにご苦労様。」と・・・・