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第1171話 あつし

537 :本当にあった怖い名無し[sage] :2008/07/06(日) 05:08:30 ID:yKOU5zxYO
20代の頃に知人と会社をやっていたが、
最終的に、ちょっとありえないような裏切りにあい、
わずか3年で会社をたたんだことがある。とりあえず貯金もほとんど底をつきそうだったので実家に避難し、
体制を立て直そうとは思ったんだけど、あまりに傷心で、
しばらく毎日酒ばっか飲んで荒れていた時期があった。

その頃、夢にたびたび小さな男の子が出てきた。小学1.2年くらいかな。
いつもだいたい「たっくん。元気出して」とか言われて、俺は目が覚める。
(俺が小さい頃に両親が俺を「たっくん」と呼んでいた)

何度目かに見た時に、夢ながらもさすがに慣れてきたんで、
その子に「君は誰なの?」と聞いてみた。
すると、「たっくんのお兄さんだよ」と言われた。
夢の中なので特に不思議にも感じなかった(と思う)俺は
名前を尋ねると、「あつしっていうんだよ」と。
そして子供は「じゃあね」みたいな感じでいなくなり、目が覚めた。

まあ俺も酒ばっか飲んでて頭がおかしくなってるのかと
自分でちょっと怖くなり、いろいろと反省した。仕事もせねば、と。
しかもせっかく実家にいるのに両親と飯も食わないのも何だし、
その晩はめずらしく一緒に食べることにした。

テレビを見ながら両親と晩飯食べていた。
怖い系の番組でタレントが不思議な体験談を話していた。
食卓にはあまり会話らしい会話がなかったもので、落ち着かない俺は
会話作りのためにテレビに便乗し、その子供の夢の話をしてみた。

538 :本当にあった怖い名無し[sage] :2008/07/06(日) 05:10:46 ID:yKOU5zxYO
すると父が「その子、自分であつしって言ったのか」と真顔で聞いてきた。
母はなんともいえない顔で俺を見て、箸を置いてしまった。
父はいぶかしい顔で「とりあえずご飯食べなさい、後でちょっと話がある」と。
俺は内心、「なんだよおい…」と思ったが、急いで飯を食べた。食後、簡単に片付けをしてから両親が改まって話しを始めた。
俺には10歳上の姉がいるが、本当は最初に男の子がほしかったと。
まあそれで以後も子作りをして、また2年後くらいに妊娠したと。
妊娠がわかってから何ヶ月かした頃に、とある母の身体的事情で堕胎することに。
「無事生まれても奇形になる可能性が高い」と医師に言われたそうで、
やむをえずという判断だったらしい。
堕胎の時点では男か女かはわからなかったそうなんだけど、
両親はなぜか「絶対に男の子だ」という妙な確信をもっていて、
名前をあらかじめ決めていた。それが「あつし」とのこと。

この話は姉もまだ小さくて覚えてないようだったので
それ以後は一切していなかったと。
しかし、俺が生まれるまではささやかながら
仏壇に水やお菓子をあげたりしていたそうだ。
その後、だいぶたってから「やっぱ男の子ほしいねえ」
という話が再燃して、結果、無事に俺が生まれたと。
その話をしながら母はぽろぽろ涙をこぼしていた。
父は「魂は生きるのかねえ、う~ん」などとしんみり。

その夜からとりあえず酒はやめて、仏壇にお菓子を供えた。
あつしが無事に生まれていたら俺はいなかったんだな、
と思うと、気力が少しわいてきた。
なにはともあれ、そのような話がまさか自分にあるとは
思ってもみなかったので、それがいちばん驚いた。

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