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第136話 二階

813 :あなたのうしろに名無しさんが・・・[sage] :02/08/11 10:04
ウチの実家にまつわる話なんですけど…

母方の実家は、石川県のとある過疎地、海辺の町にありまして、
昔、…だいたい昭和のなかばぐらいから小商いをやっているんです。
で、実家の建物は「店舗」と「母屋」の二つに分かれてまして、
「店舗」のほうは二階建ての結構大きな建物なんですね。

これは、オイラの爺さん(母親の父ね)がとある筋から買い取って
そのまま店舗として使ってるもので、相当に古い木造建築なんです。
多分、戦前からの建物なんじゃないかなあ、と。

で、その建物にはちょいといわくがあるんですよ。

814 :813[sage] :02/08/11 10:07
そこの元の持ち主(Aさんとでもしておきましょ)ってのが、
かなりの金持ちだったらしくて
まあ、昔のこと、金にものをいわせるタイプのろくでなしだったそうです。
妾を作っては奥さんを泣かせるような、で、家庭をかえりみない、ってやつ。

そんなことを繰り返すものだから、
当然、別腹の子供なんてものも出てきたりして。
それで、その子供を引き取ることになったわけですね。

それでまあ、Aさんの本妻としてはその子供が可愛いはずもなく
折檻をよく加えたそうです。よくある話でしょうけど。

そういうことが行われていることはAさんはもちろん、
近所の人も薄々感づいていたらしいのですが、Aさんの性根からして、それを止めることもなく
その子は日々衰弱していったと思われます。

815 :813[sage] :02/08/11 10:09
そして、ある日その子は病死してしまったそうです。
あくまで、公には、ですが。
実際のところは分かりません。
ただ、折檻が行われていたことは確かなようです。

そして折檻の場所は、今現在、実家が店舗として使っている建物の二階だったらしく……。

その後、Aさんは別の女と行方不明。奥さんは財産を食いつぶしながら
しばらくは町に留まっていたそうですが、やはり行方知れずになったそうです。

816 :813[sage] :02/08/11 10:11
当時はそういうの、特に珍しいことじゃなかったそうで、
オイラの爺さんも事情を知っていても、特にAさん宅を買い取るのに躊躇もなかったと話したそうでね。
爺さんも、そりゃあ女好きだったそうで。

で、まあ特に大きな改装をすることも無く、今もそのまま店舗として利用してるんです。

817 :813[sage] :02/08/11 10:13
さて。

オイラの母親がこの話を聞かされたのは、随分と歳をとってからだったにもかかわらず、
子供のころから店舗部分の「二階」には上がりたがらなかったそうです。
「なんか、すごく気持ち悪かったから」だそうで。
今でも母は、たとえ今住んでいる家でも、「二階に上がる」という行為を極端に嫌がっております。
また、母が学生の時代には、母の家には「死んでも行きたくない」と嫌がった友人も何人か居たそうです。
あ、別に母と仲が悪かったわけではないんですよ。念のため。

で、オイラもガキのころは世間一般のように、
盆暮れには両親に連れられて里帰り、ってやつをやらされたわけなんですけど、
はい、オイラも「二階」には、子供ながらになにか得体の知れない気持ち悪さを感じておりました。

818 :813[sage] :02/08/11 10:14
しかし、子供だったんですねえ。
怖いもの知らずって言うんですか、ちょいとした冒険心でねえ、
昇りました。「二階」に。
819 :813[sage] :02/08/11 10:18
「二階」に昇ったのは、オイラが小学生だったその日、ただの一回こっきりです。
いい歳になった今でも、もう昇りたいとは思いませんね、ホントに。

両親と親族が盛り上がり、子供がオイラ一人だった状況で、本当に退屈だったんですわ。
それで、まあイタズラ気分で探検だあ、なんてノリで。
正月で誰も居ない店舗に入り込み、薄暗い店の奥まで行き、細い細い「二階」への階段を見上げました。

随分たった今でも、はっきりと思い出せます。

木板を軋ませながら、ゆっくりと階段を昇りました。子供には危険な程、急な階段でした。
で、昇り切りました。目の前にはずっと向こうまで薄暗い、細い廊下が続きます。
廊下の雨戸は全て締め切られていましたが、隙間から日差しが僅かに漏れ、
「二階」の様子はぼんやりと見渡すことが出来ました。
印象としては、薄暗い緑色の空間、って感じでしたね。
空気は冬にもかかわらず湿った感じで、どんよりとよどんだ印象を受けました。

820 :813[sage] :02/08/11 10:21
すぐそばのふすまは開け放たれていました。
そこから部屋の中の様子が窺えます。
綺麗に整頓されていて、薄暗さと、そしてそこはかとなく漂う気味悪さが拭われれば
普通に生活できそうな部屋でした。

畳の上には、色々古臭い物がありました。
物入れ、火鉢、その他もろもろ……
全てが古臭いものでした。

しかし、オイラの興味は、壁際に立つ一枚の「屏風」にのみ注がれたんです。
日本画風の女性が描かれ、その横に何か詩のようなものが描きこまれた大きな屏風でしたね。
まあ、ちょっとした旧家なんかには、よくあるような代物でしょう。

821 :813[sage] :02/08/11 10:23
で、その屏風、どこかおかしいんです。薄暗くて最初はよく分からなかったんですが。
じいっと見ることで、その違和感がどこから来ているのか分かりました。

どうにも不自然なものがあるんです。

822 :813[sage] :02/08/11 10:25
最初、それは屏風の絵の一部だと思っていたのですが、
それは絵ではなく、屏風の汚れだと気付いたんです。
屏風の隅から中央にかけて、何かドス黒い液体がぶちまけられたような汚れ。

これは「血」じゃないのか。

それを見た瞬間でしたね。
何故かは分からないんですが、オイラはその汚れに「血糊」をイメージしてしまったんです。
それはもう、不自然なほどに。確信に近いものがありました。

823 :813[sage] :02/08/11 10:28
その途端、恐怖が湧き上がりましてね、なんだか猛烈な悪寒を感じて、オイラは階段を駆け下り、
そのまま母親のところまで行き、その日はずっと両親のそばに張り付いてました。
両親はオイラが怖がってることに気付くことも無く、オイラはなにも話せませんでしたねえ。
寝るときも、母親の寝床にもぐりこみましたよ。
824 :813[sage] :02/08/11 10:30
それから、何年かして。

ふとしたことで、母親に「二階」に上がった話をしたんですわ。
それまでは「二階」に上がったこと、当然報告済みだったような気がしてたんですが
どうやらその日が初めてだったらしいんですね。
だってねえ、母親、こう言ったんですよ。

「おかしいねえ。だって、二階は倉庫になってて、ダンボールやらなんやらで一杯のはずだよ。
 あんたが生まれる前から」

嫌な思い出です。

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