第2923話 居間の女性

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638 :1/6:2012/10/04(木) 19:59:37.63 ID:pgjMq6fF0
これは俺が幼稚園の頃 もう30年以上前の話

当時の俺はよく怖い夢を見てた
迷路のような巨大な図書館で、大きな口のある毛むくじゃらの巨大な芋虫のような化け物に追われる夢
「熱出した時に必ず見る悪夢」なんてのはよく聞くけど、俺は恒常的に見てたんだ

その夢は、いつも同じ結末だった
ずっと化け物に追われるんだけど、図書館を逃げ回ってるうちに、本棚の影でうずくまって泣いてる女性を見つけるんだ
その女性は真っ白なドレスを着て、頭には透けた布を被っていた
夢を見ていた当時は気が付かなかったというか、そもそも知識になかったんだが、思い返せばあれはウェディングドレスだったな
彼女は花嫁だったんだ しばし見とれる 怪物はいつの間にか消えている
意を決してその花嫁に声をかけ、何故か大人になってる俺が彼女の手を取ると、彼女が笑って鐘が鳴る
そこでいつも夢は終わる

見たことも無い女性なのに、何故かとても懐かしく、どこか悲しい想いがした
今では細かく思い出せなくなってしまったが、彼女の笑顔はとても綺麗だったはずだ

そんな夢をほぼ毎日のように見てたんだが、ある日を境に見なくなった
いや、ある出来事を境に…と言ったほうがいいのかもしれない

639 :2/6:2012/10/04(木) 20:01:09.68 ID:pgjMq6fF0
あれは7月の半ば アブラゼミの鳴声が煩い 暑い日だった
その日俺は、珍しく他県から家に来ていた母方の祖母に「もうすぐ兄になる」と聞かされていた
その時にはよくわからなかったんだけど、家族が増えるってことはわかったので、なんとなくだけど嬉しくて、ドキドキしてた

昼飯を食った後、祖母と姉が買い物に行った
家に残ったのは俺だけだ
どうにもそわそわして、俺は家の中をうろうろしてた

子供部屋を出て廊下をうろうろ
台所で冷蔵庫を開けたり閉めたり
それからまた廊下に出てうろうろし、今度は両親の寝室に入った
寝室からは居間に繋がり、居間からは台所にもつながっているので、俺は今度は別ルートで台所まで行こうと居間に入る

意味なんか無い
ただ、落ち着かなかったから

居間は昼なのに薄暗かった
カーテンが閉まっていて、電気も消してあったからだ
ほのかに、親父が吸ったタバコの残り香がする
俺はこのどこか空虚で、ちょっと不気味な居間の雰囲気が好きだった

640 :3/6:2012/10/04(木) 20:02:42.83 ID:pgjMq6fF0
台所の入り口に向かって居間を横切る
右手に置いてある大きなソファーを横目に、向かいにあるドアを目指す
中程まで進んだところで、ふと背後からしんとした気配を感じ、振り返った

心臓が止まるかと思った

居間に置いてある大きなソファー
その中央に、見たことも無い格好の、見たことも無い女の人が座っていた

青いフード付きのローブ 長いスカート
少し傾げた首
そして、腕に抱いた赤子

驚いて、思わず声を上げようとしたが声が出ない
そこで俺は異変に気付いた

部屋から全ての音が消えていた
ノイズひとつ聞こえない 完全な静寂
そして、部屋の色
壁も、ソファーも、床も、全てがフィルターを通したように青みがかっていた
部屋の温度も下がっている
少し寒い 夏なのに

青暗く、音の無い部屋、冷たい空気
そこでさらに気付く タバコの匂いもしない
じぶんちの居間なのに、まるで別世界だ
でも、恐怖は一切感じなかった
俺は目も心も、ソファーの女の人に釘付けだったから

642 :4/6:2012/10/04(木) 20:04:22.72 ID:pgjMq6fF0
ゆっくり体全体を前後に揺らしながら、女の人の口元が動いている
歌っているのだろうか
聞こえないのでわからないが、きっとそうだ
今思えば、子守唄だったのだろう

気付けば俺は泣いていた
何故か無性に悲しくて、切なくて、懐かしくて
でもそれ以上に目の前の光景があまりにも「美しい」と思ったから
そのまましばらくの間、静かに泣いていた
泣きながら、見惚れていた

どれだけそうしていただろうか
突然、俺の頭の中に夢の中で見た花嫁の笑顔が浮かんだ
夢の花嫁は、目の前の女の人とは全然違う人なのに

その瞬間

「ただいまー」

あっけない程唐突に、音が戻る
姉の声だ
同時に、目の前の女の人が消えた

643 :5/6:2012/10/04(木) 20:05:57.37 ID:pgjMq6fF0
アブラゼミの鳴声が煩い 壁も床もソファーも青くない 暑い
いつもの薄暗い、ちょと不気味なだけの居間 親父の吸ったタバコの残り香がする

ああそうか
俺は理解した

あの美しい光景は失われてしまったんだ と

しばらく呆然と立ち尽くしていると、キッチン側のドアが開いた
「どげんしたとね?!」
振り向くと、祖母が驚いた顔でこっちを見ている
俺は祖母に抱きつき、泣いた ただただ泣いた
祖母はそれ以上何も聞かず、ずっと頭を撫でてくれた

その日から、もうあの怖い夢を見ることはなくなった
代わりに、夢の中の花嫁の笑顔も思い出せなくなってしまった
とても綺麗な笑顔だったはずなのに

そしてその数日後、妹が生まれ、俺は兄になったんだ

644 :6/6:2012/10/04(木) 20:07:33.17 ID:pgjMq6fF0
10年後、俺は中学生になってた 妹とは喧嘩ばっかりだw
夢のことや、あの居間での出来事なんかすっかり忘れていた

そんなある日、美術史の授業があった
美術なんて、音楽や体育、家庭科と並んで「実技は楽しいけど座学はつまらない」科目だ
当然、催眠効果も大きい 実際、クラスの過半数は夢の世界に旅立つのが常だ
俺も慣例に漏れず、半分寝ながら授業受けてた

スライドで絵を写しながら先生が何やら解説しているが、まるで頭に入らない
しかし、スライドが一枚の絵に切り替わった瞬間、俺の脳は過去へと繋がり、一気に覚醒した
それどころか思わず立ち上がって「あぁっ!!?」と叫んでしまった

教室はザワついたが知ったこっちゃない

信じられなかったし、わけがわからなかった 今でもそうだ ありえない

「大公の聖母」ラファエロ・サンティ (1504年)

そんなタイトルと共に映し出されていたのは、見紛うはずもない、あの日、あの居間で見た、あの女の人そのものだったのだから

夢の女性と居間の女性、そしてラファエロの絵 関連があるのかは解らない
だが俺は、死ぬまでに本物の「大公の聖母」をこの目で見たい いや、見なければならないと思っている

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『第2923話 居間の女性』へのコメント

  1. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/05(金) 20:27:15 ID:081b3395e

    ミケランジェロは「中に人が埋もれてる大理石から彫り出す」のであって大理石ならなんでもいいわけではなかったとか
    何かそういう神聖な人たちのいる異次元(天国でもいいけどさw)があって、それを垣間見ることが出来てなおかつ芸術的才能があった人たちが絵画なり彫刻なりの作品として再現したのかなぁと思ったり。

  2. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/05(金) 22:16:13 ID:03928e2e3

    これは良い話だねぇ。
    創作だとか検証だとか無粋な気がしてする気が起きないわ。

  3. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/06(土) 01:29:52 ID:cfac36867

    口調にイラッときたけどいい話
    いつか本物見られたらいいね

  4. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/06(土) 03:04:10 ID:613b5b26e

    確かにちょっと小説がかってるけど、良い話だね

    夢の中の花嫁さんと、聖母マリアは同じ人なのかな?
    花嫁さんが別人で、投稿主の奥さんとかいうのを期待してしまったw

  5. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/06(土) 03:52:04 ID:040a5aa98

    そういうオチは、つい期待しちゃうよね。オチって言うと怒られそうだから因果、因縁とでも言い換えとくかw

  6. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/06(土) 12:47:53 ID:522c01aa5

    大公の生まれ変わり…?

  7. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/06(土) 21:45:11 ID:e242e9d5d

    俺が地獄少女を見た時に感じたモノと似てるかも

    いつも夢で見た着物のお姉さんから少女になっていった(俺が年取ったから)ヤツとそっくりでかなりビビった

  8. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/07(日) 04:39:13 ID:fbf3bb409

    あんまよくわからない
    僕はおバカさんなの?

  9. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/07(日) 10:29:08 ID:56d0690c7

    青いローブは絵画では聖母マリアの象徴です。

  10. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/08(月) 14:36:08 ID:4867a0164

    なるほど!勉強になりました。
    (५ً☬ཻैั້͈◡ً☬ཻैั້͈ )

  11. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/08(月) 19:56:58 ID:d86571090

    あかと青が、聖母の色なんだよ。
    処女性と…清純?の現れで。
    だからピエタ(聖母子)のマリアは赤と青の衣を纏うの。
    ルネサンス期あたり以降の着彩されてるものはラファエロ以外もほぼ赤と青の服のはず…なんだけどな。

    ちなみに、ラファエロならサンピエトロのピエタ像が美しかった記憶が。

  12. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/11(木) 11:51:57 ID:b340fdb4f

    ラノベみたいな文章だな

  13. 名前:ロココ 投稿日:2012/10/15(月) 18:48:47 ID:e22b2feaa

    あなたの妹がラファエロ、それかなにかと関連するとかはないの?
    確かめる手段もないだろうけど

  14. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/15(月) 22:43:16 ID:85b10c516

    よくわからんが、とりあえず、
    教科書の挿し絵のフランシスコザビエルを想像すればいいんだな

  15. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/16(火) 09:14:30 ID:da8c5ea9a

    小説書きたいのか体験談書きたいのかどっちかにしろ

  16. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/17(水) 23:25:21 ID:94a067bc8

    そうだねー、残念ながらw

  17. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/10/22(月) 14:47:22 ID:d39ddf1fb

    面白い話なのになぜ下手な小説臭くして台無しにするのか

  18. 名前:名無し 投稿日:2012/11/16(金) 18:46:27 ID:45153514d

    読みやすいしそこそこ文章上手いからいいじゃん

  19. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/04/15(月) 14:13:11 ID:21979f538

    幼稚園にあがるか、あがらないかくらいの頃
    聖母マリアと思われる女性がベッドの足元に現れた。

  20. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/06/21(金) 02:03:30 ID:d5c1aa65c

    この前までやってたラファエロ展で「大公の聖母」観てきたよ。すごい人出だった。
    彼も行ったかな。

  21. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/07/08(月) 01:12:39 ID:4c4f10fb3

    語り口が臭過ぎる

  22. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/07/13(土) 10:44:56 ID:1d51d28c6

    そこそこ上手くても、状況だけはまあ伝わっても、
    なんかイラついて二度と読みたくない文章ってあるんだよなー
    ここのサイトの殿堂にはその対極にあるような
    何度でも読み返したくなる名作があるわけだけど

  23. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/10/03(木) 11:24:42 ID:f2fde3478

    ラファエロ展、大混雑でしたね…
    彼も見たのかなぁ。

  24. 名前:名無しの 投稿日:2014/07/18(金) 02:23:53 ID:5a28209b1

    あるがままにw

  25. 名前:名無しの 投稿日:2014/07/18(金) 02:32:51 ID:31790ce40

    すでに決まっている形を素材から取り出すという発想について、夏目漱石も興味を抱いていたらしく作中で言及してるね。木彫だけど。

  26. 名前:名無しの 投稿日:2014/07/18(金) 02:38:13 ID:5a28209b1

    なんでやねん!

  27. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2015/02/01(日) 14:54:18 ID:fe0626d13

    ちょっと文を書くことに酔いすぎてる感じはする

  28. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2015/03/05(木) 19:46:51 ID:8c9e2c90b

    「我は知性に導かれ ただ要らざるものを取り除くのみ」ってミケランジェロだっけダヴィンチだっけ