第1783話 幻肢

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396 :本当にあった怖い名無し[sage] :2010/03/12(金) 10:32:30 ID:mJhtQ1PuO
以前、こちらに書かせて頂いた、開業医を営んでいる者です。
当院は少ないですが、一応入院施設もありまして、時間内救急指定を登録してます。
私は囲碁が趣味で、本来入院患者さんとの個人的な交流はマズいのですが、
当時入院をされていたプロ棋士のFさんと毎夜静かに手合わせをしていました。
Fさんの部屋は三人部屋で、同室には二週間前に機械事故で右肘以腕切除のYさんの
二名のベッドがありました。Yさんの手術後数日はYさんの御家族が、院泊されてましたが、
Yさんの肩がリハで動かせるようになったその頃には、もう一日一回見舞い程度に
なっていました。後はリハを続け、傷口の治療なので、私の仕事は術後経過程度で、
残りはセラピストと義手技師の仕事でした。

日課の消灯前のFさんとの手合わせをしていると、「先生は囲碁お強いんですか?」
Yさんから声を掛けられました。当院に救急で運ばれてから、ずっと塞いでおられた
Yさんに声を掛けられて、普段なら「おや、ご機嫌は如何ですか?」など返すところですが、
その時の私は「え、いや・・・。」と間抜けに応えるしか出来ませんでした。

397 :本当にあった怖い名無し[sage] :2010/03/12(金) 10:33:26 ID:mJhtQ1PuO
今でこそ老眼の眼鏡は必需品ですが、その頃の私は目の良さが自慢でした。
その私が目の錯覚と思える程の、驚きの不可思議な光景がそこにありました。
Yさんは上体を起こした状態でベッドに座っていて、胸の高さにマグカップが浮いてるのです。
私は声も出せずマグカップを眺めていると、Yさんの包帯を巻いた右腕が動き
カップが動いたかと思うとおもむろにYさんはカップを煽り、残りを飲んでしまわれ
またYさんの右腕が一旦下がり、上がるとマグカップがすうとベッド横の
チェストテーブルに着地。
まるでYさんの見えない肘の先がマグカップを動かしたように見えたのです。
私は失態を隠すように、「飲み物を看護婦に持って来させます。」と、
取り繕いうのが精一杯でした。

囲碁の後、談話室で先程の光景を反芻しているとFさんがやって来ました。
「先生も見ましたか?」と言われ、「ええ」と短く答えました。
Fさんは先程の現象はカーテンで見えなかったのですが、昼等に幾度か見たそうで、
私の表情で「それ」が何か分かってたようです。

「彼にはまだ右手があるんでしょうな。」と、Fさんは私の授業料の缶コーヒーを
啜りながら付き合って戴きました。ちなみに本人には言ってないそうです。

398 :本当にあった怖い名無し[sage] :2010/03/12(金) 10:34:39 ID:mJhtQ1PuO
しばらくして、Yさんは術後経過も良好で、義手リハのため専門の病院へ移りました。
そして、セラピストの報告書に目を通しているとメモ欄に、
「足元に何かが落ちる音がして、見ると自分が飲んでる缶ジュースの
リングプルが落ちていた。自分でどうやって缶を開けたのか覚えていない。」
旨のことが書いてありました。私はあの能力があれば、義手も必要ないのでは?
と考えると、今でも不謹慎な笑みが出てしまいます。

PostScript
若い方の為に補足しますと、昔の缶ジュースは今のプルタブと違って、
リングプルという方式で完全に缶から抜いてしまわないと飲めませんでした。
昔の道路の片隅にはよくこのリングプルが落ちている光景が見られたものです。

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『第1783話 幻肢』へのコメント

  1. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/03/26(金) 20:23:00 ID:814f76adb

    不思議なこともあるもんだ

  2. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/03/26(金) 21:26:00 ID:90a4d14d4

    世の中にはまだまだ不思議なことがあるもんだなあ。

  3. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/03/28(日) 01:00:00 ID:fe4781779

    医者だからか創作だからか知らないが文章うまいよね。

  4. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/03/28(日) 11:30:00 ID:8571fbc16

    読みやすかった、面白いし

  5. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/04/03(土) 10:12:00 ID:920cb0027

    切断のショックで何かの力に目覚めたのかな

  6. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/04/04(日) 21:57:00 ID:d64ac370c

    この話の手を切断された方に幸あれ

  7. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/04/04(日) 23:03:00 ID:48c6d510e

    興奮して看護師の親に見せたらこの文医療的に何かおかしいって言われた…。

  8. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/04/04(日) 23:06:00 ID:c79a7f310

    興奮して看護師の親に見せたらこの文医療的に何かおかしいって言われた…。

  9. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/05/05(水) 06:01:00 ID:e6defa25d

    医療関係者が読むと確かに違和感がある内容だね・・惜しい

  10. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/05/17(月) 22:02:00 ID:11b31527f

    これに似た話、江戸川乱歩の短編にあった。確か「指」って題名でピアニストの話。

  11. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/07/06(火) 21:09:00 ID:226f636ec

    ↑↑ どこがおかしいのか具体的に教えてよ~ 専門用語バリバリで素人には無理ってのなら諦めるが

  12. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2010/07/25(日) 18:45:00 ID:dc67a3484

    なんだ創作かー面白かったからいいけど。幻肢痛?とかあるんだからこういう事があっても不思議じゃないよね

  13. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2011/01/02(日) 00:51:51 ID:af9aac3fb

    リングプル懐かしい

  14. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/01/08(日) 03:51:08 ID:9140c2a7f

    もしこの書き手が「第1657話 金属片」のじいさんと同一人物なら、医療体制とかシステムが今と昔で違うんじゃないかな?
    引退したお医者さんが老眼鏡も必要なかった若い頃の話ならかなり昔(30〜50年前)の話だろうし、リングプルの缶ジュースなんていつ頃まであったか知らんが結構古い話だろ。

  15. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2012/03/21(水) 16:04:25 ID:3e8e52924

    リングプルは90年ごろまであったよ。

  16. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2013/01/31(木) 12:42:36 ID:24ef90eea

    理性、論理的思考は邪魔になる

  17. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2014/10/10(金) 13:20:41 ID:2e0ae118b

    気づいてしまったらもう使えないのかな?

  18. 名前:本当にあった怖い名無し 投稿日:2015/09/14(月) 03:36:45 ID:0d3dd3b5f

    プロ棋士のFさんってまさか秀行先生?
    だとしたら羨まし過ぎるぞ。